忘れな草の令嬢と、次期侯爵の甘い罠
「エルフォートが生きていた頃は、ギュスターヴ家との交流もあったのです。
エルフォートは隔てなく人と付き合う才があったから、ギュスターヴ家も跡取り息子をうちに預けるくらい仲は良好だったのに」

エルフォートはテスの父だ。生きていてくれたらと思わない日はない。

グロリアの言葉に、テスの脳裏に断片的な記憶のページがはためく。
ストーリーにまではならない、淡い色にかすんだいくつかの場面と交わした言葉、くらいのものだ。

テーラードのジャケットにサスペンダー付きのパンツ、編み上げのブーツをきちっと身につけた少年。
すでに小さな紳士然としてテスにも優しく接してくれた…といったおぼろげな思い出しかない。
言われるまで、あの少年がリランという名だったことも忘れていた。

喘息もちのせいか線の細い印象のある男の子が、今日颯爽と馬を駆っていた人物なのか。
どうも記憶の中の姿とうまく結びつかない。
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