忘れな草の令嬢と、次期侯爵の甘い罠
テス、とルシンダがこちらに視線を向けてくる。
「本来ならあなたはもっと人生を謳歌すべきなのよ。
十九歳の娘ざかりで、素晴らしく青い目に波うつ栗色の髪をもつ、とびきりの美人なのに。家のことにあくせくしてばかりで」

「おばさま、わたしがやりたくてやっているのよ」
本心から返す。

「大学進学を勧められるくらい女学校でも成績優秀だったのに。このわたしだって、大学生の頃は勉強のかたわら、社交クラブに出入りしたし、友達とダンスパーティーなんかにも繰り出したものだわ。
いい経験になったし、その時の人脈が今も仕事に活きてるのよ」

ルシンダにそう説かれても、ヒースクレストから通える距離に大学はない。
グロリアを一人残して寄宿舎に入る気にはなれなかったし、家の経済状況を考えても、大学進学という選択肢は早々に頭から消した。

あなたには未来があって可能性がたっぷりあるのよ、とルシンダはいつもそんなことを言って励ましてくれるけれど。
ヒースクレストの邸と庭園と厩舎が、テスを取り巻く世界のほぼ全てだった。
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