忘れな草の令嬢と、次期侯爵の甘い罠

第二章/舞踏会

*    *    *


テスの日常は、なかなかに忙しい。
かつては小間使いから家令に至るまで何十人もの使用人を抱えていたというヒースクレストも、現在では住み込みで働いているのは三人だけだ。
厩舎を任せているロジャーと、邸全般の仕事をしているハーミトン夫妻だ。
皆、テスが生まれる前から邸にいるのだから、使用人というより、もはや家族も同然だった。

ハーミトン夫妻の夫のダンが庭仕事や邸の簡単な修繕といった外仕事を、炊事や掃除の内仕事を妻のベッシーが担当している。

皆年配でありとても三人だけで手が回るはずもないので、たまに人を頼んだりもするが、普段はテスが一緒に立ち働いている。
庭木や花壇の手入れをし、家の掃除や食事の用意をしたり、町に買い物に行ったり、馬たちの世話をしたり、といったことだ。

そしてそんな家にまつわるあれこれを、テスはこよなく愛しているのだ。

記憶にある母も、女主人が率先して手を動かすことが何よりも大事、と気配り目配りする人だった。
そんな母の姿を心のどこかで追っているのかもしれない。
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