忘れな草の令嬢と、次期侯爵の甘い罠
ある日のこと、天気が良いのでテスは自室の窓辺にクッションや枕を並べて陽にあてていた。

そこへ、お嬢さま、とベッシーが部屋をノックした。後ろには夫のダンの姿も見える。
二人とも固く口を引き結んでいる。

なにかしら、と声をかけると、ベッシーが手にしている手紙を、しぶしぶといった様子で差し出してきた。
「お嬢さま宛てに、フェント家からです。舞踏会の招待状じゃないかと」

二人がそこを立ち去るつもりがなさそうだったので、テスはそのままレターオープナーで手紙の封を切った。
大判で全体に透かし模様の入った、なんとも派手派手しい封筒だった。
さらには香水をたっぷり振りかけたのだろう、手にしているだけで匂いが移りそうだ。

中ははたして、フェント家が主催する舞踏会の招待状だった。

『我が家の親しい隣人であるギュスターヴ侯爵家の令息を主賓に迎えての…』
『ついてはリベイラ伯爵家令嬢、テオドラ嬢にご出席いただきたく…』
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