忘れな草の令嬢と、次期侯爵の甘い罠
「ギュスターヴ家の跡取り息子とマリベルがカップルになるのを、わたしに見せつけたいようだわ」
ひらひらと便箋を広げてみせる。

「お嬢さま、行くことなんてありません」
ダンの節くれだったこぶしが、固く握られている。

「そういうわけにはいかないわ、正式な招待ですもの」

「フェント家がこの家にどんな悪事を働いているか、みんな知っています」
無骨なダンがここまで感情的に声をあげるのはまれなことだった。

「人を使ってうちの貸家の前に汚物をばら撒いたり、果樹園の借り手には堆肥を回さないだの、やっていることは犯罪です。
うちだけじゃありませんや。経営している繊維工場の工員が労働組合を作ろうとすると握りつぶしたり、強引で悪どい手を使って成り上がってきたんです」

そう嘆いても、フェント家が金と権力を手にしているのは事実だった。

「わたしどもは、フェント家のために働く気なんてありません」
ベッシーが両の手を胸の前で組み合わせて、訴えるように口にする。
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