忘れな草の令嬢と、次期侯爵の甘い罠
フェント邸を訪れるのは久しぶりだった。
女学校時代にティーパーティーだの増築した別館のお披露目だので、何度か呼ばれたものだ。

テスが褒め言葉を口にしても、不機嫌そうなマリベルの態度が不思議だった。

友人のアイダは「結局あなたが妬ましいのよ」と慰めてくれた。
「財力を見せびらかして悔しがらせたいのに、あなたはあくまで礼儀正しく褒めるんですもの。しゃくに触るのよ」

「それなら呼ばなければいいのに」

「でしょう、でも呼ばないとそもそも見せびらかせないし。どっちにしても気に食わないなんて、困った人よね」
アイダはくすくす笑ってみせた。

誰かを見下していないと満足できないなんて、考えてみれば不幸なことだ。
思いを巡らせながら、フェント邸の門をくぐった。

相変わらず、絢爛豪華としかいいようのない外観だった。
ざっと見ただけで、三つの様式の建築装飾が施されている。

玄関ホールだけでちょっとしたパーティーが開けそうな広さだ。
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