忘れな草の令嬢と、次期侯爵の甘い罠
「今夜はうちと親しくお付き合いしているギュスターヴ侯爵家のご子息もお見えになっていますの。
どうぞ最後までいらしてね。そうそう、ご子息とわたしには近々めでたいお知らせがあるかもしれなくってよ」

「まあ、それはそれは、友人として祝福するわ」

「友人? 友人ですって!」マリベルが高笑いしてみせる。
「わたしとあなたがいつ友人になったのかしら? 
同級生のよしみで呼んだだけで、落ちぶれ貴族を友人にもったおぼえはないわ」

本音を丸出しにされても、と困惑すると同時に、やはりプライドが傷つけられる。

それは残念だわ、と小さく告げて、そそくさと大広間(サルーン)へ向かった。

シャンデリアのまばゆさに目を射られ、いっとき入り口で立ち止まってしまった。
何もかもが桁外れに派手な空間だった。広さといい天井の高さといい、ちょっとした劇場がすっぽり収まりそうだ。

床一面に緋色の絨毯が敷きつめられ、赤い天鵞絨(ビロード)に金糸の房のついた緞帳(どんちょう)がたれている。
壁にはメッキで縁どりした鏡がかけられ、置かれたマホガニー製の調度にはすき間なく彫刻がほどこされ、という徹底ぶりだ。
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