忘れな草の令嬢と、次期侯爵の甘い罠
ロジャーは腕のいい調教師だ。
どこの厩舎でも引く手数多(あまた)だろう。

それでも———
馬はいつでもテスのよき友人だった。
そのたてがみを撫で、艶やかな首に手を回して頬を寄せるだけで、もの言わぬ友にどれだけ慰められたことだろう。

実直なロジャーはテスの両親の代から、ヒースクレストの厩舎で働いているのだ。
自分は馬たちを失い、そしてロジャーはヒースクレストでの職を失ってしまう日が来たら。

どころか祖母と二人、ヒースクレストから追われることになったら。
自分ははたして顔を上げて生きていけるだろうか。
< 3 / 66 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop