忘れな草の令嬢と、次期侯爵の甘い罠
ぴたりと目の前で足を止めると、ゼドーは鷹揚さをみせるように両手を広げた。
「リラン殿、いかがですかな、拙宅の催しをお楽しみいただいておりますでしょうか?」

ええおかげさまで、とあくまで如才なくリランが返す。
社交の場に慣れている態度だ。

「それはそれは、お招きした甲斐があるというものです」
重々しい口調に、こちらが主催者(ホスト)だという主張をにじませている。

「そしてこちらが先ほどもご挨拶させていただきましたが、当家の娘のマリベルです」
片手をあげてマリベルをしめす。

マリベルが白い歯をみせて、最上級に艶やかな笑顔を浮かべてみせた。
人の目にどう映るかを意識して鏡の前でよくよく練習したのだろう、くっきりとした表情だ。

リランも愛想のよい微笑みで返す。
「今後ともお見知りおきを」

「踊っていただけませんこと? わたくしダンスには自信がありますの」
えくぼを刻んだまま、語尾を弾ませてマリベルが言った。

「せっかくのお言葉ですが、今夜は婚約者と一緒ですので。
ご紹介がまだでしたね、こちらがわたしの婚約者のリベイラ伯爵家令嬢、テオドラ・リベイラ嬢です。
普段は愛称の “テス” で呼んでおりますが」
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