忘れな草の令嬢と、次期侯爵の甘い罠
*    *    *

あくる日、テスは馬を駆って丘陵地を道なりに進んでいた。

親戚のルシンダ叔母の出迎えに向かっているのだ。
春から初夏へと向かう時季。空気はしっとりと湿気を帯びて柔らかく、あたりは温められた草の香りに満ちていた。

かつては、見渡す限りのこの地が、リベイラ家の領地だったのだ。
今はもうヒースクレストの館と庭園と牧草地、そしてわずかな家作しか残っていないけれど。

旧くからこの地に住む者なら、一定の敬意をもってリベイラとヒースクレストの名を口にすることだろう。

ルシンダ “おばさま” と呼んでいる女性は、父の従姉妹にあたる。
祖母とテスにとって数少ない心許せる、そして自分たちのことを気にかけ力添えをしてくれる存在だった。

「おばさま」
「テス!」
大きな街道に差しかかる待ち合わせ場所に、もうその女性も馬で到着していた。
二人は馬上のまま、挨拶を交わしそのまま並んで馬を進める。
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