忘れな草の令嬢と、次期侯爵の甘い罠
どうやらどのコースを選んでも、最終的にはリランの敷いた道に出る仕組みになっているようだ。

本来なら願ってもない申し出なのに。
彼は申し分のない名家の総領息子にして、人目を引かずにおかない外貌まで持ち合わせているというのに。
素晴らしい好青年、という形容だけには収まらない、神秘的な琥珀の瞳の奥にあるたくらみの深さが、テスを戸惑わせた。

「きみの言うとおり、僕たちはまだ若い。僕もこれから大学を卒業しないといけない身だ。もう父の事業を手伝ってはいるけどね。
僕の心はテオドラ・リベイラ嬢のもので、大学を卒業次第結婚すると、世間の人に知らしめたいんだ」

結局、舞踏会の翌週の週末にはリランはヒースクレストを正式に訪れた。
テスとの婚約の許しをえるためだ。
シルクのシャツにクラヴァットをきちんと結び、ダークブラウンのウエストコートとジャケットという正装で、普段着だったテスをすこし慌てさせた。

グロリアとルシンダに見守られて、二人は婚約を交わし、テスの薬指にはリランが持参したサファイアの婚約指輪がはめられた。

その数日後には、ギュスターヴ侯爵家令息とリベイラ伯爵家令嬢の婚約のニュースが、新聞の社交面で大きく取り上げられた。
フェント家の舞踏会での出来事は、かなり尾ひれがついて人の口から口へ伝わっているようだ。
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