忘れな草の令嬢と、次期侯爵の甘い罠
次いで、今度はフェント家の事業の実態を追求するルシンダと彼女の夫のランスの署名記事が、紙面を賑わすようになった。

それからほどなく、フェント家が経営している炭鉱事業や繊維工場で、従業員のための労働組合が発足することが発表された。
外部の監査員に就いたのは、いずれも経済界で名があり公平性で知られる面々だ。

…そのあたりまで読んだところで、テスは新聞から顔を上げて訊いた。
「フェント家はこれからどうなるのかしら?」

すぐ隣でオットマンチェアに長い足を載せてくつろいでいるリランが、こちらへ視線を向ける。

「底力があればやり直せるさ。今度はまっとうなやり方でね。それができないなら事業を売却してひっそり暮らすことだ。
ゼドー・フェントはそのあたりの勘定なら得意だろう」
リランが小さく両の手を広げてみせる。

婚約後もテスは変わらずヒースクレストに住まい、リランが通ってくる形をとっていた。
こうして居間でおしゃべりをしたり、馬車でドライブをしたり、馬で遠乗りも出かけ、ときには町のレストランで食事も楽しんだ。

彼はあくまでも紳士として振る舞い、口づけ一つ求めようとしなかった。
婚約にいたる性急さからすると意外に感じられるが、もちろん口に出したりはしない。
そんなことを言ったら何をしでかすか分からない部分が、リランにはある。
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