忘れな草の令嬢と、次期侯爵の甘い罠
話を元に戻すというように「噂好きの人はあれこれこじつけて言うものだ。僕らが結婚すれば、そんな辛気臭い昔話も一掃されるさ」と軽やかに口にする。

そうとんとん拍子にことが運ぶものだろうか。
両親を亡くしてから味わってきた辛苦は、テスの気質をやや懐疑的なものにしてしまっていた。

「別荘においでよ、テス。ここの厩舎の馬は素敵だけど、うちにもきみが気に入りそうな馬が揃っているんだ」

この文句が決め手だと知ったらリランは気を悪くするだろうか。
彼が上機嫌でヒースクレストを辞してから、そんなことを思ってテスはひとり笑みをこぼした。

あら思い出し笑いをするなんてと、そんな自分に気づいて驚く。
そういえば今日リランはきみの笑顔を見るのが好きだと言ってくれた。

彼はわたしに笑顔を取り戻してくれたのだ。
いまだ定まらないリランへの気持ちに、ひとまず感謝の項目が付け加えられた。

そしてテスはリランとともに優雅な箱馬車で、緑深い隣のダロウビー地区へ向かっていった。
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