忘れな草の令嬢と、次期侯爵の甘い罠
麦わら色の髪を無造作に結い、よく動く大きな瞳をもつ見るからに快活なルシンダ叔母は、新聞記者を生業にしている。

娘時代に、いわゆるお嬢様学校ではなく大学に進学したいと両親に告げるも、貴族の娘にふさわしくないと反対されてしまった。
そんななか従兄弟であるテスの父が、その意気や良しと学費を援助したのだ。

彼女は大学で経済学を修め、独立不羈(どくりつふき)の精神の赴くまま、卒業後は新聞記者として働いている。
そんなルシンダの夫はさらに自由人で、組織に所属せずあちこちの雑誌や新聞に記事を寄稿している物書きだ。

ルシンダはテスの父への恩義を深く心に刻んでおり、テスの両親亡き後は物心両面でなにかと支えになってくれた。

ここ数ヶ月で急激に悪化しているヒースクレストを取り巻く現状に、陽気なルシンダの表情も冴えなかった。

二人は口数少なく並足で馬に揺られていたが、重苦しい気配を振り払うように「いい天気ね」とルシンダが声をあげてあたりにぐるりと視線を巡らせる。
目の前に問題が立ち塞がっていると、周りの景色も見えなくなりがちだ。
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