忘れな草の令嬢と、次期侯爵の甘い罠
「これからきみのためのイニシャル入りの品を用意しないと。手鏡とか櫛とか小物入れだとか、すべてきみのために誂えたいんだ。
今回は間に合わせですまないけど」

まあリラン、とテスは苦笑する。
「イニシャル入りだなんて、わたしたちまだ結婚していないのに」

「僕はきみが思っているより、よほどせっかちなんだろうな」
言いながら、リランがティーカップを口に運ぶ。

「本当のところわたしは淑女らしく振る舞っていても、じゃじゃ馬なんだわ。
そうね時々、人よりも馬といるときのほうが自然に感じるんですもの」
正直に口にする。

「僕もそうだよ、気が合うな」

リランの言葉にまたちょっと笑ってしまったけど、すぐに表情を引き締める。
「そんなことで侯爵家の夫人が務まるのかしら」

「僕としてはティールームでご婦人方と噂話に明け暮れたり、舞踏会で上品だけどその実なにを考えているのかよく分からない微笑みを浮かべて客人をあしらうような妻は求めていないんだ。
心根が優しくて自分に正直で、動物と心を通わせることができる女性が好きだ」

リランが好きだという女性に当てはまっているだろうかと自分に問いかける。
彼に好かれたいと望んでいるのだと、認めざるをえない。
強引かと思えば細やかな気遣いをみせて、掴みどころがなく自分を翻弄するこの美しい青年に。
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