忘れな草の令嬢と、次期侯爵の甘い罠
分かってくれて嬉しいよ、とリランは満足げだ。
「年老いた馬たちは田舎の牧場で面倒をみてもらっているんだ。だからここにいる馬はみな若い。馬車を引く馬と乗馬用だ。
気に入った馬に乗るといい。今日はもう暮れてきたから、明日にでも遠乗りに行こう」

リランの提案をテスが青い目をきらめかせて受けたのは言うまでもない。

あくる日、テスは厩舎でリランの助言を受けながら、灰毛の牝馬を選んだ。

「遠乗りだから、瞬発力よりスタミナがあるタイプがいい。こいつは気立もいいし辛抱強いんだ。初めての相手でも怖がらずに乗せてくれるだろう」

「名はなんというの?」

「レアだ」

よろしくねレア、とテスが首すじを撫でると、レアが小さくいなないて返した。

「あなたの馬は一度見かけたことがあるわ。あの素晴らしい馬。体全体が黄金色(きんいろ)に輝いて。
遠目に見ただけだけど、今でも目に焼きついているわ」

「ハーランのことだね、こちらにいるよ。僕の一番のお気に入りだ」
興奮気味に喋るテスをリランが一つの馬房に案内してくれた。

「ああやっぱり、なんて綺麗なの」
思わず感嘆の声をもらす。
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