忘れな草の令嬢と、次期侯爵の甘い罠
馬はもちろん美しい生き物だけど、ハーランの美しさは神々しささえ感じるほどだ。

「外国から取り寄せたんだ。見た目だけじゃなく気候の厳しい場所で生まれた品種だから持久力もある。取り寄せるだけの価値はあったよ」

厩舎係から手綱を受け取ると、二人は馬にまたがった。

ああこの感覚。いつも乗っているシャイロとちょっと違うけど、レアに合わせて乗馬用の筋肉が微調整されるのを感じる。
レアは身体能力が高いだけでなく賢い馬でもあった。
乗り手の力量を探り、問題ないと判断すると、颯爽と駆けはじめた。

リランとハーランは言わずもがな。隣で優雅に流れるように駆けている。

二人ともしばし乗馬に没頭した。
そしてこのダロウビーの森は、馬にとっても乗り手にとっても実に気持ちのいい場所だった。

空気はしっとりと柔らかく、あふれんばかりの緑が目を満たし、微風が木の葉をそよがせ鮮やかな野花の頭を揺らす。
鳥たちは空を切って舞い上がって鳴き声を響かせる。虫の声も聞こえる。

しばらくはそうして馬の走りたがるまま、思う存分走らせた。
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