忘れな草の令嬢と、次期侯爵の甘い罠
「なんて気持ちがいいのかしら」
ようやく手綱を引いて馬を並足にすると、頬を紅潮させて、隣のリランに喋りかける。

「まったく同感だね。僕たちのために用意してくれたみたいな天気だな」
リランもくつろいで自由にひたっている様子だ。

緑に包まれて、いるのは馬と自分たちだけ。そんな状況がテスに勇気をもたらした。
「あなたは昨日、動物と心を通わせることができる女性が好きだと言ったけど…」

リランが促すような眼差しをむけてくる。

「わたしいつか自分の厩舎を持ちたいの。良い馬を飼って、相性のいい血統を調べて繁殖させて。
たとえば大柄な馬は足を痛めやすいから、小柄で丈夫な馬とかけ合わせるとか。産駒の調教もやってみたいわ」

自分はロジャーもときに驚くほど、そして一目置いてくれるほど馬への情熱を持っているのだ。

「それはいいビジネスにもなるな」
リランの瞳に好奇の光が閃く。

「収益化するには時間が必要でしょうけど…」

「そこまで分かっているとは大したものだ。
きみのお祖母さまといい、記者をやっているおばさまといい、リベイラ家の女性の手綱を人に任せようとしない気概には、いつも感服させられるよ」
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