忘れな草の令嬢と、次期侯爵の甘い罠
乗馬という状況を絡めて、うまく表現するものだ。

リランはおそろしく頭が切れまったく抜け目なく、彼の手にかかったら自分など簡単に御されてしまいそうだ。
いやもうそうなってしまっているのだろうか。

「そんな侯爵夫人ってどうかしら?」
とおどけてみせた。

悪くないよ、とリランがくちびるの端を上げる。

「ああテス」と何かに気づいたように彼がささやいた。
髪に葉っぱが、と手を伸ばしてくる。

肩をすくめて彼が葉をはらってくるのを待っていたら、不意に強い力で肩を抱き寄せられた。

なにを!? と思ったときにはもう彼の手がテスのあごにかかり、彼の顔がすぐ眼前に迫っていた。

こんなときでさえ馬のことが頭をよぎってしまう。
馬上の人間が動じると、それは馬にも伝わってしまう。
最悪、暴走や二足立ちといった危険な事態を引き起こすこともあるのだ。

「ん…」
だからテスは手綱を握ったまま、リランのなすがままに口づけを受けた。
熱いくちびるが重ねられ、ほどなくして離れた。
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