忘れな草の令嬢と、次期侯爵の甘い罠
ひどいわ、とテスはそっぽを向いた。
「馬が驚くじゃない」

「きみならそう言って拒まないだろうと思ったんだ」
ぬけぬけと口にする。

彼の顔をまっすぐ見られない。

「すぐ近くに小川がある。馬に水を飲ませよう」
リランが馬上で体をひねり手綱を引いた。

小川で馬に水をやり水辺に生えている柔らかな草を食ませた。

婚約者に口づけされたからって怒ることじゃない。当たり前のことなのに。
どうしようもなく奥手な自分が呪わしい。

「だってねえテス。いちいち『今からきみに口づけたいんだけど』なんて断りを入れるのも変だろう」
ハーランの様子を見ながら、リランはふざける余裕まであるのだ。

「あなたはいつも突然すぎるわ。振り回されてばっかりなんですもの」
本当に困るのは、翻弄されながらも彼のことを嫌いになれない、どころかどんどん心惹かれていることだ。

休憩のあとは速足(トロット)でさらに馬を進めていたが、レアにアクシデントが起こってしまった。
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