忘れな草の令嬢と、次期侯爵の甘い罠
フェント家の奸計(かんけい)に晒されていなければ、この時季の遠乗りはどんなにか心弾んだことだろう。

あら、とルシンダがなにかに気づいて小さくつぶやいた。
テスもその視線を追った。

見渡す丘陵地の背の高い草並みの中に、ぽつんと馬に乗った人影がある。
こんな町の外れまで遠乗りなんて、物好きもいるものだ。

それよりも…テスはたちまちその馬に瞳を奪われてしまった。
遠目にもなんとも素晴らしい馬だった。どこの品評会に出しても優勝をさらうことだろう。

彫刻のように引き締まった体躯に、豊かなたてがみと尾。その被毛は…見たこともない、これが月毛と呼ばれる毛色なのだろうか。
鹿毛よりずっと淡くクリーム色がかって、陽光を受けて黄金色に輝いている。
まるで神話に出てくる生き物のようだと、いっときテスはすべてを忘れて馬に見入った。

向こうも馬を止めてこちらを見ていた気もするが、そんなことは気にならなかった。

テスとルシンダが見つめるうち、やがて馬は速度を上げて視界から遠ざかってゆく。
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