忘れな草の令嬢と、次期侯爵の甘い罠

エピローグ

*    *    *


「ねえリラン、早く早く! 馬が到着したんですって。ハーランのお嫁さんになる馬。
わたしがこの前の品評会で見つけて、血統も調べて決めた馬よ」
テスが声を弾ませる。

「ああ、僕より先に結婚できるハーランが羨ましいよ」
リランは頭を掻きながら最愛の婚約者を見つめる。

自分が贈ったボンネットをかぶり、早くも乗馬用の手袋をしている。

リランが大学を卒業してから結婚という段取りで、テスはヒースクレストとダロウビーにあるリランの別荘に半々くらいの割合で滞在するようになった。
ギュスターヴ領にも二人で足を運び、無事に両親への紹介もすませた。

目下の悩みは学業と愛しい婚約者との暮らしと父親の事業の手伝いの両立であり、その婚約者はときたま自分よりも馬に夢中なのではないかと感じられることだった。

「このボンネット、とっても素敵だわ。かぶるのが嬉しくてしょうがないの」
深青の瞳をきらめかせてテスがボンネットに手を添えてみせる。

それは麦わらで編まれサファイアブルーの薄絹で裏打ちされたつばの広いボンネットだった。
あごの下で結ぶリボンも同じくサファイアブルーだ。テスの美しい瞳の色に素晴らしく映える。

「ボンネットもいいけど、かぶっている人のほうがもっと好きだな」

「リランったら」

テスが笑う。テスはよく笑うようになった。
そしてリランも笑う。

この一瞬一瞬を幸せに思いながら。




【了】
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