忘れな草の令嬢と、次期侯爵の甘い罠
乗り手の腕前も確かだった。
馬の躍動をしっかり受け止め、全身が馬と同じリズムを刻んでいる。

「おばさま、ご覧になった。あの素晴らしい馬!」

まあテス、とルシンダはあきれたように片方の眉をちょいと上げた。
「馬のことしか見てないなんて」

それ以外に何があるのかしら、と怪訝(けげん)に思いながら、ふたたび馬を進める。

やがてヒースクレストが近づいてきた。

小高い場所に建つヒースクレストは美しい邸だ。
代々のリベイラ伯爵家が住まい、増改築を経て、訪れる人を歓迎するように優美で上品な翼棟を左右に広げている。

正面玄関から入ると、窓から差しこむ外光が、玄関ホールに敷きつめられた象牙色の大理石を淡い金色に染めていた。

テスとルシンダは、そのまま祖母の待つサンルームへ足を向けた。

庭を見渡す位置にあるサンルームには、大きくとられた窓から燦々と陽が注いでいる。
テラコッタ色のタイルの床に白い窓枠、テーブルと椅子も白で統一された洒落た空間だ。
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