あなたを抱きしめる、唯一の
不思議なお客様
鏡で身だしなみを簡単にチェックする。
少し短めのボブは、紺色の三角巾で覆われている。髪の毛がはみ出たりはしていない。食べ物を扱うわけだから、とにかく一目で清潔だとわかるようにしないと。
メイクも派手ではない、けれど一応しているとわかるくらいの絶妙なバランスで施している。和菓子屋なのだからノーメイクのほうがいいと思ってはいるが、最低限の身だしなみとして必要なのだ、と店長から言われてからは遵守している。
これが路面店なら話は変わったかもしれない。でもここは笹栗デパートの地下に出店している和菓子屋・“つるばみ屋”、そして私はしがない契約社員の棚島和音だ。
首から下げた社員証もチェック。真新しい社員証には、そこそこ日に焼けた、イマイチ垢抜けない女の子が写っている。
三角巾とお揃いの、紺色のエプロンもきちんと確認する。ポケットには小さめのノートをいつも入れているけど、これには和菓子の名前と値段、知識が詰め込まれている生命線だ。
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