あなたを抱きしめる、唯一の
「高いものを沢山売るのでは次に繋がらない?」
「その場合、お客様は一度で満足されてしまいます」
彼は頬をポリポリとかいた。さっきまでの柔らかな微笑みはすっかり消えてしまっている。
「長期的に見ると、売り上げの損失となります。高いものを大量に一度に買うより、安いものを少量でも、何度も買っていただければ前者よりも利益が出ると考えております」
「ああ、そういう戦略ね」
「それだけではございません」
私はにっこりと笑ってみせた。
「お客様が望む、お客様にとって美味しいものを食べていただきたいです」
数ある和菓子屋の中で、このつるばみ屋を選んでくれたならなおさら。美味しい和菓子を食べて、幸せになってもらいたい。
そう伝えると、彼は眼鏡のブリッジを何度も上げ下げした。いやどういう感情?
思いが顔に出る前に、彼が動いた。
「この……桜御前の星と月、一本ずつください」
「かしこまりました!」
「それと、栗饅頭の十二個セットのやつも」