あなたを抱きしめる、唯一の

「ただいま用意いたしますので、少々お待ちください」


 私は心からの笑顔で、注文された商品を準備する。商品に間違いがないかを確認してもらい、手早く丁寧に正確に袋に詰めていく。


「ありがとうございました!」


 後ろ姿に深々とお辞儀をして顔を上げると、沢木店長が近寄ってきた。親指をグッと立てて、うんうんと頷いている。


「棚島さん、いいもの見せてもらった」

「へ? あの、店長?」

「販売に限らず、仕事ってのは誰かを幸せにするためのもんじゃないとね」


 ……聞かれていた。


「あのぉ、ちなみにどの辺りから……?」

「うん? 桜餅とか説明してる辺り」


 最初のほうじゃないですか!? 仕事してくださいよ!……と床に転がってジタバタしたい衝動を抑え、必死に口角を上げる。


「いやいや、仕事しながらだから全部は聞いてないよ?」


 店長は顔の前で手を振って、よくわからないフォローをしてくる。どうしても私のテンパり具合が伝わってしまったらしい。

 あたふたする店長を遮り、「それよりも」と話題を無理に変えてしまう。こういうのはさっさと流すに限る、うん。
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