あなたを抱きしめる、唯一の
「先ほどのお客様、珍しいですね」
「あ、ああ、そうだね」
店長は続けて、「ああいう若い人はまだ珍しいねぇ」と返してきた。若い人が買いにくるのは、店長からすればそこまで珍しいものではないのかもしれない。
和菓子屋のお客様は、基本的に高齢層が多い。常連様を思い浮かべると、全員が白髪でシワだらけの顔だ。
二十代から三十代は、洋菓子のほうが舌に合うのかケーキ屋さんに寄っていく。確かにカラフルでキラキラした洋菓子は魅力的だ。私だって洋菓子は大好きだし、気持ちはわかる。
でもカラフルでキラキラなら練り切りだって負けていないと思う。つるばみ屋では月ごとに上生菓子が届くが、どれも色も形も鮮やかで、食べるのがもったいないと何度思ったことか!
……話は外れてしまったが、とにかく若い人が和菓子屋に来るのは珍しい。それこそ家のお使いとか、自分が食べたいって感じの人は少ないと思う。
さっきの人はどうだろう?
疑問が湧き出たものの、またお客様がやってきたので、そちらを対応するうちにすっかり忘れてしまった。