あなたを抱きしめる、唯一の
不思議な販売員──Side XX
和菓子に洋菓子、カップスープの素にコーヒー、エトセトラ、エトセトラ……。
それらが所狭しと来客用のテーブル敷き詰められている。さて、調子に乗って買いまくったのはいいが、どうしたものか。
椅子に腰掛け、シミひとつない天井を見上げる。すぐに彼女の笑顔が脳裏に浮かんでくる。
和菓子の美味しさを説明するときの、ほんのり赤く染まった目元。販売員としての姿勢を表明したときの、真っ直ぐな視線。
「専務、失礼いたします」
ノックの音と共に聞こえてきた秘書の声に、俺は我に返った。
「どうぞ」
そう言い切るか否かというタイミングで、秘書の柴崎が入ってくる──と同時に、テーブルに積まれた商品たちを目に留め、ため息でも吐きそうな顔をした。
「専務、また“抜き打ちチェック”ですか?」
「悪いことではないでしょう?」
椅子で踏ん反り返ったまま、運ばれてくる商品を味見するのでは見えないものがある──というのが俺の信条である。たとえ買った品物がどんなに良くても、従業員の接客が悪ければ客の気分は最悪だろう。
だからこそ、店全体の空気や従業員の態度、それら諸々を含めての“商品”だと俺は考え、時間を作っては柴崎が言うところの“抜き打ちチェック”を繰り返している。