あなたを抱きしめる、唯一の

 抜き打ちチェックが終わると、問題点を指摘する資料を作成して柴崎ら秘書たちに渡して各フロア長に渡す。それから改善されているかを確認するため、再び抜き打ちチェック──この繰り返しだ。

 食品街だけでなく、紳士服や靴に帽子、文房具やインテリア、スポーツ用品等々、あちこちに足を運んではいるが、婦人服にはさすがに行けない。俺が中性的な見た目だったら行けたかもしれないが、言ってもどうしようもない。

 誰か、秘書でもいいから女性を雇って抜き打ちチェックを……と考えていると、つるばみ屋の彼女が浮かんできた。

 彼女の視点から見た他店の接客を見てみたい。

 しかしそのためには、自身の身分を明かさなくてはならない。

 もし明かしてしまえば、きっと彼女はああした接客をしてくれなくなるだろう。

 それは──嫌だ。


「専務、こっちの羊羹は明日の会議で出してもよろしいですか?」

「あ、ああ……秘書課で決めて構いません」


 俺は今、何を思った?
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