あなたを抱きしめる、唯一の
また、あんな風に朗らかに、楽しそうに和菓子について語ってほしいと、確かに願ってしまった。
でもあの一回で十分じゃないか? 彼女は優秀な販売員だ。それがもうわかったのだから、正体を明かしてもいいじゃないか。それで彼女が萎縮してあの接客が受けられなくなっても、何の問題もないはずだ。
「あのぅ、専務?」
そもそも物怖じしない性格かもしれない。俺が専務だと知っても、畏まらずに意見を伝えてくれるタイプかも……いや、確証もないのに決めつけるのは止めよう。
「午後からの定例会議についてですが……」
そう言えば、彼女はつるばみ屋の正社員なのだろうか? もしもパートや派遣だったらぜひうちに引き抜きたい。そのためにはまず──。
「情報が必要だな……」
「専務!」
柴崎の大声に俺は肩をビクッとさせた。心臓に悪い真似をするなと怒りたかったが、氷のような眼差しに射すくめられ、口を真一文字に引き結ぶ。
「……情報でしたらこちらの資料に記載されております」