あなたを抱きしめる、唯一の
柴崎はキビキビした所作で、俺の前に分厚い資料を置いた。午後の定例会議に使うための資料は、今後の経営戦略を話し合うものであるため情報がこれでもかと詰まっている。
……こんな大切なものを出してくれようとしたのに、気づかないとは。
「ありがとう、午後の会議も頼みます」
「はい、よろしくお願いします」
柴崎は穏やかな笑みを浮かべながら頭を下げた。笑顔なのに怖い。「仕事中に呆けている暇があるか」という圧を感じる。
柴崎は数年前まで父さんの秘書をしていたせいか、よくこういう圧のかけ方をしてくる。物腰は柔らかいが、こっちが何も言えなくなってしまうようなやつだ。
「そんなとこ父さんに似なくていいのに……」
「褒め言葉として受け取らせていただきます」
柴崎はやはりにっこり笑って応じた。こんなとこまでそっくりだ。俺のほうが息子なのに、柴崎のほうがよほど息子っぽい。
いや、そんなことを考えている場合じゃない。
「柴崎さん、至急調べてほしいことがあるんですが」
「はい、なんでしょう?」
俺はつるばみ屋のカードを引き出しから取り出し、柴崎に手渡す。
「つるばみ屋の女性社員について調べてほしいんです」