あなたを抱きしめる、唯一の
愛すべき常連様
「鮎菓子の笹栗版……てことですか?」
鮎菓子は若鮎とも呼ばれ、カステラ生地で求肥を包んだ和菓子で、焼き印を使って顔と尾が描かれている。要するに、鮎をかたどった生菓子なのだ。
ふわふわのカステラ生地の舌触り、もちぷるな求肥の食感、しつこくない甘さ──さらに近年ではデザインも多様化しており、見た目も可愛らしい鮎菓子が市場に出回っている。
大体は来月、つまり五月ごろに入ってくる季節ものだから、この時期に話が出てきてもおかしくはない。でも休憩室で目の前に座る菅野さんは、「笹の葉みたくするって」と教えてくれた。この笹栗デパートでは笹や栗がモチーフの商品が多い。
そこから推測して、聞き返したというわけ。
推測は当たり、菅野さんは「そういうこと」と頷いた。
休憩室で和菓子の本を読んでいた私のところに、菅野さんはチラシを持って教えにきてくれたのだった。
「これ、これが来月から納品されるんだって」
菅野さんはそう言って、新商品のチラシを突き出した。