あなたを抱きしめる、唯一の

「はい、食べるのがお好きなんですね」
 

 私はカタログギフトを持ち出して、あるページを指で指し示した。


「でしたら、春の特別ギフトはいかがでしょう」


 このギフトは桜のフレーバーや桃を使ったお菓子の詰め合わせで、全体的に薄いピンク色をしている。「ちょっとしょっぱいものも欲しい」というお客様のご要望にも応えられるよう、お煎餅やおかきなどに商品の一部を変えることもできる。

 彼にそう説明すると、「じゃあ、それ一つ」とそっけない返事が返ってきた。今日は色々聞いてこないんだな。


「ではこちら伝票になります、ご住所と電話番号と氏名をご記入ください」


 彼が伝票に書き込む間に、私は店の奥からギフトセットを持ち出してカウンターの上に置いた。数量や種類を確認し、カタログの写真とも見比べる。


「書けました」

「はい、ありがとうございます。ご注文の商品はこちらでお間違いないでしょうか」

「大丈夫です」


 彼は私を見たまま商品などろくに見ないまま言い切った。おいおい本当に大丈夫?
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