あなたを抱きしめる、唯一の

 本当にどうしたんだろう。まさか笹山さんはとんでもない悪いやつで、私にどう忠告すればいいのか悩んでる……とか。


「それじゃ、これは昔話がモチーフ?」

「はい、花咲か爺さんをモチーフにした生菓子でして──」


 でも、目の前で楽しそう質問してくれる彼が悪人とはどうしても思えない。


「外国の話がモチーフやつってない?」

「そうですね……日本の有名な昔話だけになってしまいます」

「そっかー……和菓子だもんね」


 笹山さんの言うように、海外の有名な童話をモチーフにした練り切りがあってもいいような気はする。それでも和菓子のプライドというか、こだわりのようなものがあるらしく、議題に上がっても実現したことはないらしい。

 沢木店長はそう教えてくれた。「生チョコ大福とかあるんだし、試してみてもいいのにねぇ」と苦笑していたっけ。


「じゃあ……花咲か爺さんを一つと、どら焼きの五個セット一つ」

「かしこまりました、少々お待ちください」


 もうすっかりお馴染みになったやり取りを交わして、私は笹山さんに頭を下げた。
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