あなたを抱きしめる、唯一の

 昨日と同じように裏口の駐車場で待っていた笹山さんに声をかけると、彼は後ろ頭をぽりぽりとかきながら申し訳なさそうな声を出した。


「悪いんだけど、今日は俺の家でいい?」


 とっさに返せなかった私を見て、笹山さんは「やっぱりダメか」と頬をかいた。


「変なこと言ってごめん、家から本取ってくる」

「いいです!」


 思ったより大きな声が出た。慌てて周囲を見渡してから、もう一度同じことを言い換えて告げる。


「笹山さんの家で、勉強したいです」


 私の言葉に笹山さんは軽く目を見開いて、少しホッとしたような顔をした。


「じゃあ、こっち」


 笹山さんに大人しくついていくと、路上のパーキングまで連れて行かれた。どうやら車で来ていたらしい。


「どうぞ」


 ……流れるように自然な動作でドアを開けてくれた。そう言えば一緒に歩くときは車道側を歩いてくれていたような。


「ありがとうございます」


 せっかくなので、好意はちゃんと受け取っておく。ぎこちない調子になってしまったのを、どうか気づかないでほしいと願いながら。
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