あなたを抱きしめる、唯一の
笹山さんの家は中古マンションの一階だった。黄ばんだ壁紙や軋む床は年季を感じさせたが、それ以上に生活感のない部屋だと感じる。
うちと同じで、家具が極端に少ないからかもしれない。私はそう結論づける。
1LDKの部屋にはテレビや冷蔵庫など重たい家電が見当たらなくて、ひどくこざっぱりしていた。
「コーヒー淹れてくるから、適当に座って」
「はい、準備しておきますね」
笹山さんは低めのローテーブルと座布団を押し入れから出して場所を整えると、キッチンに行くため居間を出てしまった。
と言っても、備え付けの棚から電気ポットやインスタントコーヒーを取り出しているのが丸見えなのだけど。
私は卑しい真似をしていると思いながらも、ノートを出しながらあちこちを見回す。服は押し入れか、別の部屋にしまってあるんだろうか、と取り留めのない思考に耽ってはノートを一からめくった。
「お待たせ」