あなたを抱きしめる、唯一の

 笹山さんの家は中古マンションの一階だった。黄ばんだ壁紙や軋む床は年季を感じさせたが、それ以上に生活感のない部屋だと感じる。

 うちと同じで、家具が極端に少ないからかもしれない。私はそう結論づける。
 1LDKの部屋にはテレビや冷蔵庫など重たい家電が見当たらなくて、ひどくこざっぱりしていた。


「コーヒー淹れてくるから、適当に座って」

「はい、準備しておきますね」


 笹山さんは低めのローテーブルと座布団を押し入れから出して場所を整えると、キッチンに行くため居間を出てしまった。

 と言っても、備え付けの棚から電気ポットやインスタントコーヒーを取り出しているのが丸見えなのだけど。

 私は卑しい真似をしていると思いながらも、ノートを出しながらあちこちを見回す。服は押し入れか、別の部屋にしまってあるんだろうか、と取り留めのない思考に耽ってはノートを一からめくった。


「お待たせ」
< 45 / 67 >

この作品をシェア

pagetop