あなたを抱きしめる、唯一の
笹山さんが持ってきたコーヒーで休息を取りながら、話題は昼に話していた、昔話や童話をテーマにした和菓子になった。
「町おこしとかで、その土地の伝説を題材にしたお菓子を作ったりするらしいですよ」
「ああ、企業と提携するやつか」
笹山さんはマグカップを置くと、両肘をテーブルに乗せて腕を組んだ。
「棚島の地元は? 伝説とか伝承はあったりする?」
「うちですか、うちなら“巫女ヶ浦”ですね」
「みこがうら?」
聞き慣れない単語に首を傾けた笹山さんに、私はコーヒーを一口飲んでから語った。
「昔、村には巫女がいたんですが、彼女には恋人がいたんです。内緒で付き合っていたんですが、村人たちにバレてしまって……」
「それは大変だ」
「二人は駆け落ちしようとしたんですが、追い詰められて湖に身を投げたんです。それからその湖は、巫女ヶ浦と呼ばれるようになったそうです」
「……切ない話だね」