あなたを抱きしめる、唯一の
私は頷いてみせた。初めてこの話を聞いたとき、どうして好き合っている二人がこんな結末を迎えなくてはならないんだろうと、悲しくなったのを憶えている。
笹山さんは、「身分違いの恋ってやつか……」と遠い目をして窓の外を見やった。私その視線を追うように外へ目を向ける。薄暗い空と静かに散る桜があった。
「この伝説をモチーフに和菓子のデザインを作れって言われたら、棚島さんならどうする?」
「この伝説で、和菓子を……」
いきなり面接での質問みたいな問いを出されて、私は少し考えてから指を動かした。ノートの端に、ペンでイメージを描いていく。学生のとき以来だからだいぶ不恰好だけど、気にしている余裕はない。
「できました」
「うん、羊羹みたいな感じ……かな」
私が描いたのは、透明な上部から下部に向かって濃紺のグラデーションを描いている羊羹だ。その真ん中辺りに、赤い紐で作った蝶結びを閉じ込めている。