あなたを抱きしめる、唯一の
「湖と、二人の絆をイメージしました」
私がそう説明すると、しばらくデザインを見つめていた笹山さんは、ため息混じりに呟いた。
「棚島さんの地元は……すごく綺麗なところなんだ」
……胃の底から、苦々しい記憶が迫り上がってくる感覚がした。その記憶は脳の奥を容赦なく突き刺す。
「そんなことないですよ、全然」
手のひらに爪が食い込むのも構わずに握り締める。痛みで気を紛らわせないと、笹山さんに怒鳴って八つ当たりしてしまいそうだった。
「そろそろ勉強しましょう、アレルギーの説明とかも勉強したいし」
「ごめん、すごい綺麗だったからそう思っただけ!」
笹山さんは取り繕うように苦笑いを浮かべると、コーヒーと一緒に持ってきた本を開いた。私も両手から力を抜いて、ペンを握り意識を切り替える。
それから笹山さんは私の地元について触れることはなく、雑談の話題には和菓子の専門用語を選んでくれた。
気を遣わせている罪悪感に落ち込みそうになったけど、「半殺しと全殺しは英語でどう説明するか」というテーマで白熱した討論を繰り広げ、最終的には「物騒な単語を使わず絵も活用して説明すべし」という結論に至った。