あなたを抱きしめる、唯一の

 知らず知らずのうちに、握り締めていた手から力を抜いた。


「私は、母が嫌いでした。母だけでなく、父も、村も」

「それは……」


 言葉に詰まってしまった雰囲気に、私はあえて淡々と告げた。


「父は抑圧的な人で、母は父に従順なだけの人でした。村の人たちは他人のプライバシーなんてお構いなしな人たちで……高校を卒業してから、逃げるように上京しました」

「……改めて、申し訳なかった」


 私はゆるゆると首を横に振って、続けた。


「戻ってこいと言われるのが嫌で……仕事や住所を転々としながら暮らしてたんですけど、数年前に父が亡くなったのを知りました」

「そうか……」

「……私、葬式にも出なかったし……嬉しくてしょうがなかったんです」


 息を飲む音が聞こえた気がした。でも言わなくてはならない。


「やっとあの村から解放されたって、心からそう思えたんです」
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