あなたを抱きしめる、唯一の
彼は眼鏡越しでもわかるくらい目を見開いていた。ヤバい、またやらかした!
「申し訳ございません!」
私は慌てて頭を下げる。お客様を置いてけぼりにして自分の感想を言いたい放題するなんて、販売員失格だ。
「お客様に失礼な態度を──」
「変わってるね」
思ったより穏やかな声が上から降ってきた。その声に顔を上げる。
そこには、優しく笑う彼がいた。
なんか……結構かわいい。
「普通さ、もっと高いものとかもっと沢山売りつけるもんじゃないの?」
「……おっしゃる通り、販売員としてはその姿勢が正しいです」
私は背筋を伸ばして彼に相対する。
「ですがそれでは、本当の売り上げにはなりえないと思っています」
「本当の売り上げ?」
彼は軽く首を傾げる。私は自分の頬が紅潮するのを感じながらも自説を述べた。
「お客様の要望に寄り添い、満足していただければリピーターになっていただけます。リピーターではなくても、口コミでお勧めしていただける可能性が高い」