夜の帝王の一途な愛
彼の頭の中は現実と、嘘であってほしい気持ちとが交差してパニックを起こしていた。
「今の君は偶然にも、またあゆみさんに心惹かれたのだろう、でもあゆみさんにしてみれば別れを切り出された相手が現れて、何も無かったかのように口説いてくる現実に戸惑ったに違いない、君を忘れられない気持ちと、忘れなくちゃいけない気持ちとの狭間で悩んだ事だろう」
彼は不思議に思っていた私の言動が、パズルが解けたように理解出来た。
「俺はあゆみになんて酷い事を・・・」
「多分君は、また現れてしまう認知機能障害によってあゆみさんの記憶が消える事を恐れ、別れを切り出したんじゃないのか？」
彼は手をギュッと握り俯いたままだった。
「愛する人の記憶から自分が消える事が、どれ程辛く哀しいかわかるか？
君はあゆみさんの前から消える事があゆみさんに対しての愛情じゃないのか？
前回君が決断したように、今回も別れを切り出すべきだ」
彼は支払いを済ませ店を後にした。
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