夜の帝王の一途な愛
愛する人が自分を分からなくなる、私にそんな思いを二回もさせることなど、彼には出来なかったのである。
彼は私との別れを決意し始めていた。
私はそんな彼の気持ちに気づくことが出来ないでいた。
ある日突然彼が顔をしかめ蹲った。
「麻生さん、大丈夫ですか」
私は言いようもない不安が脳裏を掠めた。
彼は私の問いかけに応えようとせず、苦悶の表情を見せた。
しばらくして彼は落ち着きを取り戻し、私を見つめた。
その表情から私は不安が現実のものになったと感じた。
そう、彼は私を誰かわからない。
彼は自分の部屋に入り込み鍵をかけた。
「麻生さん、大丈夫ですか」
どうしよう、どう対応すればいいの?
そっとしておく?話しかけ続ける?
その時部屋の中から彼は私に言った。
「手が震えて呼吸が苦しい」
「私が麻生さんの手を握ると震えが止まり、楽になります、鍵開けてください」
しばらく間があり、彼は部屋の鍵を開けた
「大丈夫ですか、手を握ってもいいですか」
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