私の心の薬箱~痛む胸を治してくれたのは、鬼畜上司のわかりづらい溺愛でした~
「……私の父は、他に女性を作って私が小学5年生の頃に私たちを捨てて出ていきました。その後すぐに離婚した母は、私を女手一つで一生懸命育ててくれた。でも……時々、私の顔を見て悲しそうに笑うんです。私は……私の顔は、父親によく似ていたから……」
「!! まさかそれで……?」
主任が息を呑んでそう口にすると、私は彼をまっすぐに見上げて頷いた。
「大きいからしっかりと顔が隠れるこの伊達メガネがあれば、母は私を見ても辛くはならないでしょう? 少しでも、母の心を楽にしたかった。母は病気になって死んでしまったけれど、それでも死の間際、確かに私を見て笑ってくれたんです。このメガネの事、周りからいろいろ言われたりもしたけど、でも、後悔はないです」
母の笑顔を、最後に見ることができたんだから。
「水無瀬……。……んじゃ、今はもう必要ないな?」
「へ?」
不穏な言葉が聞こえたと同時に──バキッ──と硬い音が響いて、見れば主任の手にあった私の伊達メガネが真っ二つに割れていた。
「あぁあああああっ!? な、何するんですか!?」
「いや、だって、もう必要ないだろう? 気にする相手もいないんだから」
「そ、それは……」
そんなにはっきりと言わなくても良いのに。
まだお母さんの死を受け入れられない私に。
やっぱり主任は……鬼だ。