私の心の薬箱~痛む胸を治してくれたのは、鬼畜上司のわかりづらい溺愛でした~


 エントランスに入ると途端に胸が苦しくなってきた。

 ゲームが終わっても、彼は私と同じ部署にいる。
 メガネを外した私を見て、またいろいろ言われないだろうか?
 いくら陰口に離れているとはいえ、気持ちのいいものではない。

 怖い。
 だけどそうも言っていられない。

 私は大きく深呼吸すると、部署へ続く扉を開けた。

「おはようございます」
 そろりと部屋へ入って朝の挨拶。
 すると、いつもならまばらに返ってくる挨拶が全く返ってこないどころか、全ての音が掻き消えてシンとした空間に変わってしまった。

 すでに出社している同僚たちの目が、私を驚いたように見つめる。

 え……何?
 私、そんなに変?

 視線にさらされたまま固まっていると、遠くのデスクから優悟が私に近づいてきた。
 皆の前で私に近づいてくるなんて、仕事の内容確認以外では初めてじゃないだろうか。
 私の顔に、身体に、無意識に力が入る。

「君、どこの部署の子? 誰かに用事? 俺が聞いてあげるよ」

 え………………?
 まさか、私が海月だって、気づいてない?
 いやまさかね。
 だって嫌々だとはいえ、一応1ヶ月はデートしたり一緒に帰ったり、ちゃんとお付き合いをした彼女よ?
 それを気づいてないなんてこと……。

「えっと、その……」
「俺は村上優悟。君は?」

 嘘!? 気づいてないの!?
 私の存在っていったい何だったんだろう……。

 途端に虚無感が襲ってくる。
 私が言葉を失っていたその時──。

「おはよう、水無瀬。昨夜は遅くまでご苦労だったな」
 私の背後で、低く通る声が響いた。

 
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