私の心の薬箱~痛む胸を治してくれたのは、鬼畜上司のわかりづらい溺愛でした~
「主任……」
「み、水無瀬、って……くら──いや、海月《みつき》!?」
主任の言葉に目を大きく見開いた優悟が声を上げる。
くらげと言いかけて変えても今更だ。
あほらしい。
「村上君、おはよう」
敢えて下の名前ではなく上の名前で挨拶をする。
大丈夫。
私は、私を大切に生きるって決めたんだから。
「主任も、おはようございます。昨夜は遅くまでありがとうございました」
「いや。それより、会議の時間が急遽早まった。昨日の資料、コピーしてもらえるか?」
「あ、はい!! すぐに全員分コピーしてお持ちします!!」
「頼んだ」
相変わらず淡々とした物言いだけれど、前みたいに怖くは感じない。
主任の優しさがわかるから。
「お、おい海月……」
「ごめん村上君。コピーしに行かなきゃだから」
私はそう断りを入れると、目の前を陣取っていた優悟君をすり抜けて自分のデスクに鞄を置き、昨夜遅くまで仕事をして完成させた資料を手にコピー室へ向かった。
その間、私の背を優悟君がずっと追っていた事に、気づかないふりをして。