私の心の薬箱~痛む胸を治してくれたのは、鬼畜上司のわかりづらい溺愛でした~

変わりたい


「主任、資料できました」
「ん、ありがとう」
「ついでに過去の企画の内容についてまとめておいたものをメールに添付しているので確認お願いします」
「あれをか? 面倒で後回しにしていたが……助かった。後で確認しておく」

 あれから1週間が経った。

 主任は相変わらず言葉に抑揚がない。
 クールで、少し冷たい印象すら感じてしまう。
 だけどあの日の主任を見ているから、言葉の一つ一つがちゃんと誠実で暖かいものに感じられる。

 なまけたものには厳しいけれど、頑張ったものに対しては正当な評価をしてくれるのだ。
 だからなのか、その言葉は信頼できる。
 認められると、心が温かくなって、自分の頑張ってきたもの全てが昇華されていく。

 私はいつの間にかデスク上に差し入れられていた誰かからのイチゴミルク飴に気づくと、それを手に取り自然と頬を緩ませた。

 時々さりげなく差し入れられるそれが、どれだけ日々の支えになっているか。
 嫌われ者の私なんかに。
 きっとこれをくれる人は、優しい人なんだろう。

 これのおかげで、日々の仕事を挫けることなくこなすことができる。
 誰かはわからないけれど、感謝だ。

「水無瀬せんぱ~い。私、今日定時で上がらなきゃいけなくて。ほら、おばあちゃんのことで……。この仕事、あとお願いしますぅ」

 今日も?
 優悟君と佐倉さんの密会の日から毎日だ。

< 16 / 58 >

この作品をシェア

pagetop