私の心の薬箱~痛む胸を治してくれたのは、鬼畜上司のわかりづらい溺愛でした~
「で、でもっ!! おばあちゃんの病院がっ……!!」
「今日はどこの病院も午後は休診だ」
「わ、わからないじゃないですかそんなのっ!!」
すごい……あの主任に強気な態度……!!
きっとこの場にいる誰もがそう思ったことだろう。
誰も口答えすることのできない主任にこんなに言い返せる新人、そういない。
だが次の主任の言葉で、佐倉さんの顔が色を無くすことになる──。
「お前の祖母のかかっている病院もそうだ。母親に確認を取ったが、祖母は月に一回の病院で、母親が欠かさず連れて行っているとのことだが?」
「っ……それは……」
「いったい、誰と、どこに行っていたんだろうな?」
鋭い視線が佐倉さんをとらえる。
「~~~~~っ、しゅ、主任、プライバシーの侵害です!!」
「他の者にこれだけ害が及ぼされているんだ。なんとかするのが上司だろうが。もし連日の休みの理由が本当ならば休みに融通の利く部署に部署替えもしてやれるし、配慮もできる。聞き取り調査は正当なものだ」
「うぐっ……」
すごい……。
あの勢いの佐倉さんを論破した……!!
すると、主任の視線が私に映って、その鋭い瞳が一瞬だけふわりとやわらげられた。
「っ……」
ずるい。
今その顔は、反則過ぎる。
「休みを取るのも定時で帰るのも結構。だが、自分に振り当てられた仕事を他人に押し付けることは許さん。わかったな?」
「うっ……は、はぁい……。すみません……」
肩を落として大人しくなる佐倉さんに、私もほっと息をついた。
「それと、水無瀬。京都で行われる今度の事業視察だが、俺の補佐として同行を頼めるか?」
「へ?」
補佐?
主任の?
「あぁ。普段の仕事ぶりを見て、お前が適任だと思った。会議の資料も、ほぼ一人でまとめてくれたしな。お前に頼みたい」
「主任……。っ、はいっ……!!」
「よし。出張について詳しい話をする。すまないが退社前に第一会議室に来てくれ」
「わかりました!!」
嬉しい……!!
私のやってきたことが、認められたようで。
私の頑張りが、報われたみたいで。
私は緩む頬もそのままに、笑顔でうなずいた。