私の心の薬箱~痛む胸を治してくれたのは、鬼畜上司のわかりづらい溺愛でした~

 デスク周りを片付けて、退社の前に第一会議室へ向かうべく立ち上がる。

「じゃぁ……佐倉さん、がんばってね。もし何かわからないことがあったらいつでも電話して──」
「私にはカッコいい彼氏がついてるんで大丈夫ですっ!! 先輩の手なんて借りなくてもちょちょいと終わらせますしっ!!」

 完全に敵認定されてしまった気がする。
 そりゃそうか。
 あんなたくさんの人の前で、今まで馬鹿にしていた私の目の前で、主任に叱られたんだから。

 でも、私は悪くない。
 謝る必要は、ない。

「そう。わかった。でももし本当になにかわからなかったらすぐに言ってね」
 小さなミスが命取りになることだってある。
 不安なことはそのままにしておくのではなく、相談しながら進める。
 それは私が新人の時、当時教育係だった主任に教わったことだ。

「……ふんっ」
 まぁ、今の彼女にはあまりくどくど言わない方が良いわね。
 こういう時には周りが──特に怒っている相手が何を言っても頑なになるだけだから。

「じゃぁ、また明日。お疲れ様」

 私はそう言うと、しばらくぶりに残業することなく部屋を後にした。







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