私の心の薬箱~痛む胸を治してくれたのは、鬼畜上司のわかりづらい溺愛でした~

「別れた人と二人でご飯なんていけないよ」
にっこり笑って拒絶する。
私から断りの言葉が出るとは思っていなかったのだろう。
目の前の優悟君はぽかんとした顔で口を半開きにして私を呆然と見下ろしている。

「それに、佐倉さんが言ってたよ? 私にはカッコいい彼氏がついてるから、先輩の手なんて借りなくても終わらせるって。こんなところにいて良いの?」
暗に佐倉さんとのことを知っているということを含ませる。
これくらい許されるだろう。
怒っていないわけではないのだから。

「お前……何で……」
「罰ゲームなら、私はあなたと付き合ったことはノーカンでいいよね?」

元彼だなんて言わないし思わない。
私は笑顔でそう言うと、彼に背を向け、再び第一会議室へと足を進めた。

これでいい。
私は、ちゃんと変わりたい。
自分を大切にできる自分に。
嫌なことは嫌だといえる自分に。

主任の隣に立っても、不釣り合いだなんて思われない自分になる。

「っ、おい待てよ!!」
「痛っ!!」
突然すごい力で後ろから腕を引かれバランスを崩した私は、優悟君の方へと倒れ──。

「水無瀬!!」
「!?」

──優悟君の者ではない暖かいぬくもりが、私を包み込んだ。





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